心、理、初
カフェ心貴呂のカップル
○二階のリビング(昼)
ポニーテールの髪に綺麗な真顔で見つめている心(こころ)。
心の視線の先には、短い黒髪で濃い顔の理也(りや)と短い茶髪で子犬みたいな顔の初(うい)がキスしている。

○五日後のカフェ心貴呂(しんきろ)(昼)
理也「心貴(しんき)のいちごのショートケーキ二つですね」
理也は言いながら、オーダーの紙に書く。
初「お待たせいたしました。心貴呂カレーです」
初が言いながら、入り口近くの一番テーブルの上にカレーが入った白い皿を置く。
カウンターの女性客A「黒髪の人…カッコよすぎない?」
カウンターの女性客B「うん…。でも私は茶髪の人が良いな。笑顔がカワイイもん……」
後ろに居る理也と初を見ながら喋っている女性客A、B。
心(カッコイイ……。カワイイ……)
キッチンから心は理也を見て、初を見る。
カウンターの女性客C「ねぇ、デートに誘ってみなよー」
カウンターの女性客D「えっ? 無理だよ……」
カウンターの女性客C「大丈夫だってー。キレイなんだしー、男なら絶対断らないってー」
心「絶対断られますから、止めた方が良いですよ」
心はキッチンから目の前に座っている二人の会話に割り込む。
カウンターの女性客D「えっ……」
心「どちらを誘っても絶対断られますよ。だって二人はこい…」
心の父「二人ともお仕事中ですし、人の目がありますからね。誘いは受けにくいかと…」
カウンターの女性客D「確かに…そうですね……」
カウンターの女性客C「何、弱気になってんのー? キレイなんだからー、大丈夫ー」
心「あの、綺麗でも断ら」
心の隣に居た心の父が心の言葉を遮る。
心の父「そうです。綺麗なんですから、いずれあちらの方から誘いに来ますよ」
カウンターの女性客D「そう…ですかね……」
カウンターの女性客C「ダーメー。いずれとかー、いつになるか分かんない」
心の父「お客様」
心の父がカウンターの女性客Cに顔を近づける。
心の父「時には待つ事も大事ですよ」
心の父が優しい笑顔をカウンターの女性客Cに向ける。
カウンターの女性客C「はい……」
心「注文入りました。心貴のいちごのショートケーキ二つと、貴(き)の手作りジュース二つです。お父さん」
心は大きな声で言う。
カウンターの女性客C「お父…さん……」
心の父「独身ですよ」
心「早く作って貰えますか? お父さん」
心の父「分かりました」
心の父は左奥にある冷蔵庫に向かう。
心「あの、うちの店の男達に」
心の父「心ちゃーん。心ちゃーん。心ちゃーん」
心「……はい!」
心は急いで心の父の元に向かう。
心「何?」
心の父「心ちゃん。別に言わなくて良い事は言わなくて良いんだよ?」
心の父はにっこり笑いながら、りんごや人参等の果物と野菜が入った銀色のボウルを心に渡す。
心「デートの誘いが絶対断られるって言った事?」
心の父「それと?」
心「辺寺(へんじ)と初くんが恋人だって事?」
心の父「そうです」
心「事実なのに?」
心の父「事実ですけど、恋人が居る事を知ったら、お客様が減ります。
お客様を増やすために二人を入れたのに、それは困ります」
心の父は冷蔵庫近くの茶色の棚を開ける。
心「確かにそうだけど、辺寺と初くんも困るでしょ。他にも狙ってる女が多いみたいだし。はっきり言ってた方が」
心の父は棚の中から透明で細長いガラスコップを二つ取り出す。
心の父「心ちゃんは、お二人の方が心配なんですね。まだ出会ってから一週間も経ってないのに…」
心「当たり前でしょ。うちの店の大事な従業員なんだから」
心の父「そうですか……。
心ちゃん。もしかして、どちらかに恋を」
心「あり得ないから。お父さんはもうジュース作って」
心の父「作ります……」
心「お父さん。あの女はダメだから。恋しても良いって言ったけど、あの女はダメ。もし付き合ったりしたら私、出ていくから」
心の父「分かったよ。絶対! 付き合わない!! 絶対!!!」
心「ジュース!」
心の父「はい!!!」
心の父が急いでジュースを作り始める。
その心の父を悲しげな顔で見る心。

○カフェ心貴呂の休憩時間(十五時~十六時)
心「辺寺、今日はカレーね」
理也「トンカツ」
カウンター席に座って、向かい合っている理也が言う。
心「カレーね」
理也「トンカツ」
心「ねぇ、四日間トンカツだったよね?」
理也「そうだな」
心「なら、今日は?」
理也「トンカツ」
心「何でそうなるのよ? うちの店のカレー一度も食べた事ないのに」
心の父「そうなんですか?」
心の隣に居た心の父が喋る。
心「そうなの。食べたいとか思わないわけ?」
理也「思っても無理だし…」
心「無理? 無理って?」
初「理也は多分ここのトンカツがあまりにも美味しすぎて、ハマったんだと思います。だよね?」
理也の隣で静かに座っていた初が口を開く。
理也「まあ…」
心の父「そうですか…。嬉しいですね、心ちゃん」
心「まあ…」
心(嬉しい……)
心の父「今日は全員トンカツにしましょうか!」
初「はい」
心「うん……」
心の父「じゃあ、少し待ってて下さいね」
心の父はトンカツを作り始める。
初「あの……。お二人に聞きたい事があるんですが……」
心「何? 初くん?」
心の父「どうぞ。言ってみて下さい」
初「はい……。どうしてお二人は…僕達の…その……関係を知っても…驚かなかったんですか?」
心「どうしてって…驚かないから。でも、二人が家に居たのは驚いたよ。住み込みで従業員を募集してた事、全く! 知らされてなかったからね!!」
心の父「そうだったね……。私の場合は、最初にお二人に会った時にすぐ分かったからね」
初「すぐ……ですか?」
心の父「はい」
理也「すぐに分かるもんなんですか?」
心の父「そうですね。分かっちゃいましたね」
心「分かって当然だよ。お父さんは男の人と付き合った事あるし、住んだ事もあるからね。私も一緒に」
初「そうなんですか………」
理也「へぇ………」
理也・初「えっ?」
< 1 / 21 >

この作品をシェア

pagetop