ことほぎのきみへ
「違う、違うの、ごめん。
そういうことがあったわけじゃなくて……」


いまだに不安そうな表情を浮かべてる
ゆまちゃん、亜季、ゆうりの顔を順番に見ながら
そうじゃないんだと否定する


嫌なことがあって口をつぐんでいたわけじゃなくて


起こった出来事を頭の中でうまく整理できてなかったから
どう伝えたらいいか分からなかったから黙りこんでしまってただけで








「…………昔、助けてもらった人を偶然見つけて
少し話をして」



『生きるのは楽になった?』



「昔のこと……私のこと覚えていてくれてるなんて思わなかったから、びっくりして」


……でも、嬉しくて



「……なんか色々夢心地でぼんやりしちゃったの」


嬉しいことばかり続くから


全部
自分に都合の良い夢を見てるんじゃないかって




「……いろはちゃん、その助けてくれた人って
男の人?」

「?うん」

「…。そう…」


ゆまちゃんは思った事があったみたいで
答えると一瞬、大きな目をさらに大きくさせた


私はそんなゆまちゃんに首を傾げながらも
皆に笑いかけた
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