私のかみさま
「すみません、おかしなこと聞いて」

「いいや。それより佐奈ちゃん
顔色悪いけど大丈夫かい?」

「はい」


青ざめていたのかな

心配そうに眉をしかめるおばあさんに
無理やり笑顔を返して

そそくさと配達の準備を始めた







「……いない」


バイト終わり
急いでお山にやってきた

荒くなった呼吸を整えながら周りを見渡す


榊はいない


朝方バイトに行く前にも寄ったけど、その時もいなかった
昨日も姿を見てない


確かめたいのに

話したいのに

謝りたいのに



「榊」








いつもなら
こんな風に気持ちが揺れている時
望もうと望まないと現れるのに


どうして今日に限って現れないの



「…」



直したばかりの社
数日前に供えた花がくたびれている



サンダーソニア



「……おじいちゃん…」



懐かしいと笑って
昔、よく見た花だって榊は言った



あれは、おじいちゃんがよく供えていた花だ



「……どこにいるんですか。榊…」



カナカナカナ―……とひぐらしが鳴く



私の呟きは掻き消された
< 162 / 184 >

この作品をシェア

pagetop