どうせ神さまだけが知ってる




「ハヅキ、いる?」


コンコン、と律儀にノックを2回鳴らした後。扉越しにそう声をかけるけれど、返事はない。

仕方ないのでもう一度ノックをしようと手を伸ばして、扉がほんの少しだけ開いていることに気がついた。

個人アトリエはプライバシーと貴重品管理のために所有する学生が部屋の鍵を携帯することが義務付けられている。つまり、鍵がかかっていないアトリエには必ず誰かがいるということだ。


コンコン、ともう一度扉をノックして。



「ハヅキ、いるんでしょ。……入るよ」



許可は得てないけれど、仕方ない。ひとりで倒れていたらそれこそ困る。

ゆっくりと扉を空けて、そっと中を覗く。


部屋中に散らばった、破れたスケッチブックの破片と削れた鉛筆、読みかけの本や教材。そこには普段ハヅキが滅多に手にしない絵具も混ざっている。

そんな中、部屋の真ん中にイーゼルを置いて座り込んでいたハヅキが、ゆっくりとこちらを振り返った。






「ああ、イズミせんぱいか」






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