どうせ神さまだけが知ってる


『今日お姉ちゃんの大学行くね!オープンキャンパスで!』


スマホの通知画面に浮かび上がった文字に頭が痛くなった。現在AM10:30。

今日は午後からしか講義をとっていないので、午前中はアトリエにこもって美大祭の作品案を練ろうと思っていたのだけれど、予定が狂った。

もともとケータイをあまりチェックする方ではないので、今朝早くに送られてきていたこのメールに気づくのが遅くなってしまったのだ。学生寮を出てすぐの中庭でどうしたものかと私は立ち尽くす。


「あれっ、イズミおはよー」

「ああ、ミナミか。おはよう」

「どーしたの朝からそんな顔して!死んでる死んでる!」


今日は長い黒髪をポニーテールに縛って、チェリーレッドのマスカラをしたかわいらしいミナミが、私の前まできて下からじっと顔を覗き込んできた。


「いや、なんか妹が大学来るみたいでね……」

「エッ! イズミの妹! いいじゃんいいじゃん! それでなんでそんな暗い顔してんのヨ」

「うーん、なんていうか……ちょっと苦手なんだよね」

「実の妹が?」

「うん、変な話だよね」


こんなこと言うつもりはなかったんだけど。

とりあえず、大学の方に向かって歩き出す。学生寮は大学の敷地と大きな公園を通してつながっている。


「まあ別に、そういう姉妹もいるんじゃない? 変ではないと思うけど」

「そうかな……」


ミナミのこういう、誰の考え方も否定しないところがすきだ。


「でも会ってみたいとは思うなー。だってイズミの妹でしょ? お昼一緒に食べたい」

「ああ、それは全然いいんだけど……」

「けってーい! ハヅキとツカちゃんも呼んどこっと」


そして、こういやってあんまり気を使ったりしないところも。

この手の話をすると、『じゃあ妹の話はもうしないでおくね』なんて気を使われたりするんだけれど、そういうことじゃないのだ。ミナミくらい素直で、何も考えていなさそうな方が、わたしのような人間はすくわれたりするの。


< 40 / 142 >

この作品をシェア

pagetop