どうせ神さまだけが知ってる
「せんぱい、」
ラーメンの塩分が今は必要だ。
おいたレンゲを再び持って、残りのスープをずずっとすすった。
「ね、ハヅキ、いつもここのラーメンは美味しいけど、」
何を言い出すんだろう、とでも言いたげな顔で私を見る彼の目は透き通っている。このきれいな瞳がわたしの心の中の汚いものを見つけてしまったとおもうと、なんだか悲しい。
「今日は一段と美味しかった」
ハヅキの目を見て、わらう。
心配をかけるようなこと、しない。不安にさせるようなことは言わない。誰かに迷惑なんて絶対にかけない。汚い気持ちは全部さらけ出さなくたっていい。それは大人になるにつれて私が学んできたことだよ。
「……ぼくも、今まで食べたもののなかでいちばん美味しかった、です」
これ以上詮索しないで、と。そんな私の気持ちをきっとハヅキは気づいただろう。
つらさとか、苦しさとか、汚さとか、弱みとか。
負けず嫌いでごめんね。でも誰にもわからなくていいんだ。わかってほしいなんて思ってないんだ。
「……また一緒に食べてくださいね」
今日はラーメンが美味しかった。ハヅキのことを少しだけわかるようになった。またここに来る約束をして、ごちそうさまってふたりで手を合わせる。
「うん、また来よう」
私の言葉に、ハヅキがまた珍しく笑った。