溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~

彼は私のことをひと通り調べ上げている。だから私が結婚詐欺の被害に遭った過去も、当然知っているはずだ。

それなのに今までその話題に触れてこなかったのは、私の傷口を広げたくないという彼の配慮だったのだろう。

でもこれ以上、私のことでわずらわしい思いはしてほしくない。その一心で、忌々しい過去を自ら打ち明ける。

「彼と出会ったのは婚活パーティーでした。すぐにプロポーズをされて、結婚披露宴の代金を預けたら……彼は私の前から姿を消したんです」

名前も知らない彼との間にあったことを一気に話した。

「つらかったな」

「……はい」

短いけれど思いやりにあふれた彼の言葉が胸に響く。

「もう菜々子はひとりじゃない。俺がこの先もずっと一緒にいる。だから安心してほしい」

穏やかに紡がれた彼の言葉に驚き、弾かれるように顔を上げた。

彼は困っている人を放っておけない心優しい人。けれど、その思いやりが同情ならいらない……。

「どうして、親切にしてくれるんですか?」

私をまっすぐ見つめる彼に、胸に燻っていた思いをさらけ出した。

「ひと晩をともに過ごした名前しかしらない相手が、俺のグラスにシャンパンを注いでいる姿を見て運命を感じた。そして、とんでもないことに巻き込まれていることを知って思ったんだ。彼女を助けることが俺の使命なんだ、ってね」

瞳を細めた彼が静かに語る。

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