溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「いいんです。酔うためにマティーニを飲んでいるので」
思いがけない偶然に動揺しつつ答えると、二杯目のマティーニが目の前にスッと差し出された。
酔っても、ここからなら徒歩十分ほどの距離にある自宅マンションまで自力で帰れる。だから私は歓送迎会会場から恵比寿まで移動して、このホテルのバーでカクテルを飲むことにしたのだ。
「どうしてそんなに酔いたいのかな?」
「……嫌なことを忘れたいんです」
お酒に頼っても、あの出来事を忘れられるのは一時的だとわかっている。それでも……ほんの一瞬でもいいから、忘れたいと思ってしまう。
再びカクテルグラスに口をつけると、意味深な言葉が耳に届いた。
「俺が嫌なことを忘れさせてあげようか?」
カウンターに頬杖をついた彼が、上目づかいで私をじっと見つめる。
普段なら誘い文句に対して「冗談言わないで」と軽くあしらうことができる。けれどマティーニを飲んで火照り出した体に嘘はつけない。
マティーニに酔っているのか、それとも彼の熱いまなざしに酔っているのかわからないまま、甘い誘惑にコクリとうなずいた。