溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「……そんなお金ないです」
羞恥を堪えて自分の金銭状況を包み隠さず打ち明ける。すると彼の横顔にやわらかい笑みが浮かんだ。
「そのことは気にしないでくれ」
明日の引っ越し資金は専務持ち。しかもこの先、家事手当も出る予定になっている。
なにもかも頼るのは、やはり気が引ける。
「でも……」
「雨宮さんのスーツ代は経費で落とす。そう言ったら納得してくれるのかな?」
助手席でいつまでもグズグズ言っている私を見た彼が、クスッと笑った。
秘書として相応しい格好をするのも仕事の一環。もう、ゴチャゴチャと考えるのはやめよう……。
「ありがとうございます」
「ああ」
気持ちを切り替えると、彼の厚意を素直に受け入れることにした。
「ど、どうでしょうか」
黒を基調としたシックな内装のブランドショップのフィッティングルームから出ると、ソファに腰を下ろしている彼の前に立つ。
彼が選んだ初夏を連想させる白いスーツは上品なだけでなく、体にフィットしてとても動きやすい。
「よく似合っているよ」
ソファから立ち上がった彼の口から褒め言葉がこぼれた。
それはお世辞だとわかっていても、笑顔で褒められればやはりうれしい。
「ありがとうございます」
照れながらお礼を言うと、鏡を見つめた。
自分の横には、頭ひとつ分背が高い彼の姿が映り込んでいる。