溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
食事が終わり、専務と一緒にキッチンに立つ。彼はフジオカ商事の次期社長になる人物。そのうえ、イケメンで背が高い。
好条件の彼がいまだに独身なのは、どうしてだろう……。
黒シャツの袖を捲った腕に浮かび上がる男らしい血管を見つめながら、その理由を考えていると彼が腰を屈めた。
中腰になった彼に顔を覗き込まれ、脈がトクンと波打つ。
凛々しい眉と澄んだ瞳、そして通った鼻筋……。間近に迫った美しすぎるその顔は心臓に悪い。
「で? この先どうすればいい?」
彼の言葉を聞き、ハッと我に返る。
「どうすればいい?って……まさか食器を洗ったことないんですか?」
「ああ。週三でハウスキーパーを雇っていたからな」
背筋を伸ばして両腕を組んだ彼がうなずいた。
初めて聞く事実に驚いたものの、卵も満足に割れないのだから当然か、と妙に納得してしまった。
「そ、そうですか。まずはお皿の汚れをキッチンペーパーで軽く拭きとって、あとは食洗機に入れるだけです」
後片づけを手伝うことを強引に決めたくせに、食洗機の使い方もわからない彼にあきれてしまう。それでも邪険にするわけにはいかず、手本を示すことにした。けれどツルンと手がすべり、シンクの中にお皿が落ちる。
私の「あっ!」という声とともに、ガチャンと派手な音を立ててお皿が割れてしまった。
嘘でしょ……。
彼の前で失態をおかしてしまうとは、一生の不覚。穴があったら入りたい。
「す、すみませんっ!」
慌てて謝ると、シンクの中に手を伸ばした。すると彼の大きな声がキッチンに響く。
「素手で触るんじゃないっ!」
初めて聞く彼の慌てた声に驚き、肩がピクンと跳ね上がる。割れたお皿に素手で触れるのは危険だとようやく気づき、急いで手を引っ込めた。
「怪我してないか?」
「はい。大丈夫です」
私の手首を掴み、指先をじっと見つめる彼に答える。
「よかった……」
「すみません」
真剣な面持ちだった彼に、安堵の笑みが浮かんだ。
私を心配してくれた彼の思いやりがうれしくて、沈んでいた気持ちがスッと軽くなった。