溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~

一時間ほど車を走らせ、鎌倉に到着した。

街中を走る江ノ電を物珍しく見つめ、雑貨店や土産店を見て回り、そして今は古民家をリノベーションしたレストランで、鎌倉野菜のチーズフォンデュに舌鼓を打っている。

年月が経ち、独特の色合いを帯びた木材を活かした店内は、どこか懐かしい雰囲気が漂って居心地がいい。

「次は明月院に行こう」

あじさい寺として有名な明月院は知っていても、訪れたことは一度もない。

「はい。楽しみですね」

「ああ。でも天気が心配だな」

心配げな表情を浮かべた彼が、ガラス戸越しに外を見つめた。

まだ梅雨が明けていない空には、灰色の低い雲が広がっている。

「大丈夫ですよ。私、折り畳み傘を持ってきましたから」

バッグを手元に引き寄せると、傘を取り出して彼に見せた。

「そうか。それは心強いな」

用意周到な私を見た彼が、朗らかに笑う。

鎌倉散策は楽しいし、食事もおいしい。でも、彼の笑顔が見られることが一番うれしい……。

幸せな気分に浸っていると、バッグの中のスマホがブルブルと震え出した。

「すみません」

スマホを確認してみると、たくさんの通知が表示されていた。

【今どこ?】

【もしかして兄貴と一緒?】

【無視すんなよ】

観光に夢中で、広海さんからのメッセージがひっきりなしに届いていることに、ちっとも気づかなかった……。

< 72 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop