溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
しとしとと雨が降るなか、足を進める。すると道沿いに咲く紫色のあじさいに気がついた。雨露に濡れているその様子は、とても美しい。
鎌倉は、なにげない風景も絵になる。
普段は鬱陶しく感じる雨も、今はちっとも気にならないことが不思議だった。けれど情緒的な気分に浸っている時間も長くは続かなった。
次第に雨足が強くなり、折り畳み傘が役に立たたないような大きな雨粒が地面に落ち始める。
「このままだと、ふたりともずぶ濡れになるな。一度車に戻ろう」
「はい」
あっという間にできた水たまりを跳ね上げ、駐車場に向かって走った。
息も切れ切れに車に乗り込むと、バッグからハンカチを取り出す。
雨から庇うように彼が傘を斜めに差してくれたおかげで、私は足元が濡れただけで済んだ。しかし傘から出ていた彼の肩は、かなり濡れてしまっている。
「ありがとう」
「いいえ。私のほうこそ、ありがとうございました」
運転席にいる彼の肩をハンカチで拭いながら、お礼を言い合う。
「菜々子と一緒に暮らし初めてから、毎日が楽しいよ」
「私もです」
彼と一緒にいると雨に降られたことすら楽しくて、ふたりでクスクスと笑った。すると爽やかな笑顔を見せていた彼の表情が一転する。
「このまま俺と、ずっと一緒に暮らさないか?」