君へのLOVE&HATE
穂積と初めて話したのは
5月のゴールデンウィーク明け。

国語の加藤先生に図書室が来月内装工事するから本の整理を手伝ってほしいといわれ放課後に図書室で過ごすようになってからだった。

図書委員だけでは人手が足りなくて
ほかにも手伝ってくれる人が必要だったみたい。

加藤先生は私以外にも声をかけていたようだった。

みんな面倒だからうまく理由を言って断っていたのか
なかなか人が見つからなくて
国語の準備担当の私に声をかけたのだと思う。


私は断る理由もなかったし
放課後、すこしでも自宅に戻る時間が遅いほうが
気持ち的によかったし
とにかく何でもいいから
いろんなことを考えない時間を作りたかった。


期間は一か月くらいで、図書委員ともうひとりお願いしているから
といわれて
放課後、図書室にいくと
扉を開けた目の前にいきなり桜の木が飛び込んできた。


ここからもあの桜の木が見えるんだ・・・。

桜の木が見える窓際に
彼がいた。

図書室の窓からオレンジ色の光が差し込んで
窓際にたたずんでいる彼を照らしていて
とてもきれいで

思わず見とれていた・・。

「佐々木さん?」
はじめて名前を呼ばれて
すこし緊張したのを覚えている。

「香椎くん・・どうしたの?」

手元にあった本をテーブルに置いて
にこやかに彼はわらった。


「図書室の手伝いを加藤先生に言われたんだ。佐々木さんもでしょ?」

いたずら少年のように、口元をすこし挙げて
笑った。




加藤先生がもう一人お願いしているといっていたけど

香椎くんだったんだ・・。

「うん、香椎くんも?」


そうだよ、と言いながらそばに近づいてきた。
距離が近づくと、身長がとても高いことに改めて気がつく。


そして、見上げるとすぐ目の前にある
きれいな、顔におもわず見とれる。

まつ毛・・長いな・・。
目元に影ができるって初めてみたかも・・。

芸能人の・・女子高校生に人気のアイドルグループのメンバーにのだれかに似てる・・。

誰だったかな・・。

「さっそく、作業やろうか」

本棚から本を取り出していく彼に続いて本棚から取り出す。


作業を始めてふと思う。

なんで、二人きり?

「今日は図書委員さんはまだ来ていないの?」

集合時間が過ぎているのに誰もこない・・。

「えっ、放課後は俺たちだけだよ」

???

「・・・えっ!え~~!!」

どうやら、図書委員のメンバーは
放課後は部活で大会が近いとか用事があるとかで誰も来れないからって
昼休みに作業するようになっているらしい・・・


確かに図書室のすみっこに何個か積まれた段ボールが・・。


そ・・・そんな・・・。

「そんな落ち込まないで」
この状況でなぜ笑顔なのかわからないけれど、彼はにこにこしていた。

「昼休みは図書委員がしているし、作業は多くないと思うよ」
「うん・・そうだね。」

彼は作業が多くなることをわたしが気にしたのだと思っているようだけど・・

作業のこと・・よりも
実は放課後に彼と二人きりというこの状況に戸惑っている。

話もしたこともなければ
仲がいいわけでもない。
名前は知っていたから同じクラスということはきっと相手もわかっているのだと思う。

特別、彼と接点もないし、
もくもくと静かに作業するしかないという
この空気が耐えられない。

とにかく、はやく作業を終わらせよう。


「佐々木さんは部活とかしていないの?」
「うん、今は入ってないよ。香椎くんは?」
「・・俺も今は入っていないかな。・・・・そのあたりにある本、重いから俺がやるよ」
「・・あ、ありがとう」

180センチは越えてそうな身長で細身なのに、軽々と辞書レベルの重い洋書を何冊も取り出して運んでくれる。

優しい・・人なんだな。

私には薄目の軽い本ばかり残して
彼は私が届かないうえのほうにある本や、重い本ばかり整理してくれている。

どちらともなく
会話もなく
本を段ボールに詰める音と
時々
本から埃を振り払う音が響くなかで
もくもくと作業をしている私たち。

そういえば・・・
高校で仲良くなったみこちゃんが、香椎くんがかっこいいって言っていたような・・。

クラスの男子に関心がないから
そういう誰が人気あるとかモテるとか
私は疎かった。

そのときの私はすべてにおいて無気力だったし
人に関心すらなくて
毎日、ただただ時間をすごしていた。

「佐々木さん」
いきなり声をかけられてびっくりした

「は、はい!」
思わず先生に呼ばれたような返事してしまった・・。

「・・ごめん、驚かせた?」
くすくすと彼が笑う。

恥ずかしくなってうつむく。

「もう、時間も遅いしここで終わりにしようか?」


「う。ううん。・・そうだね、今日はここまでで大丈夫だね」

うちの高校は図書室以外にも図書館が別館としてあるから
そんなに大きいわけではないけれど
本の数はかなり豊富だった。

空っぽになった本棚をみて
ようやく三分の一くらい終わった感じ。

ある程度、段ボールとか後片付けをして帰りの用意をする。

「また、明日ね」

鍵は職員室に返しておくからと
彼は夕暮れの廊下を歩いて行った。

その日から
放課後は彼と図書室で一緒に過ごすことになった。

会話は少ないけれど
それでもだんだんとお互いの趣味の話や、本を整理しながらいつの間にか内容の話をしていたり、作業をしながら時間を過ごしていた。


香椎穂積という人は
読書が好きで、いろんなジャンルを読むけれど、特にミステリーが好きなこと。
中学のときはバスケをしていたけれど、けがをしたから高校では入部しないこと。
外資系に努めるお父さんと看護師をしているお母さん、大学生のお兄さんがいること。
甘いお菓子や生クリームが苦手なこと。

そして
数学が得意だということ。

教室ではあまり口数も多くない彼が
こうしていろいろと自分のことを話してくれるのがうれしかった。



「ここから見える景色、、俺好きなんだよね」
放課後、一緒に過ごすようになって一週間が過ぎたころ、
ふと、穂積が手を止めて呟いた。
その時、窓の外を見つめる穂積の横顔がすこし、切なそうな気がした。

「教室の、俺たちのところからも同じような景色見えるよね?だからあの席、俺好きなんだ」

俺たちの、、、

穂積が何気なく言った言葉にすこし、胸が高鳴った。


「私も好きだよ。」
穂積もあの座席から
同じこと、思っていたんだ、、。


「あの桜の木って伝説があるんでしょ?」
「うん。そうみたいだね」

「佐々木さんは信じる?」
「、、、、わからない。香椎くんは?どう思う?」
「俺?俺は、、」

ふと、桜の木に視線を動かして

「あるよ。俺はあると信じてる」
そう、言い切った。

そのタイミングと同時に、桜の木がすこしひかったような気がした。


❁⃘़︎•・・͓┈̊︎˳・̥̤˳┈̊︎・͓・•❁⃘़︎


図書室の整理作業も
だんだんと落ち着いてきて
もうそろそろ全ての本が整理されて
ダンボールの山が図書室を取り囲むようになってきた。

あの日も
いつもと同じように
図書室で彼と作業をして時間が来て
また明日ね・といつものように声をかけてその場を離れようとしていた。

「佐々木さん、今日は一緒に帰らない?」
「えっ・・」
鍵返してくるから下で待っててと言い残して彼は踵を返した。

放課後を一緒に過ごすようになって
もうすぐ一ヶ月。

初めてだった・・一緒に帰ろうといわれたのは。










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