君へのLOVE&HATE
病室からはあの桜の木が見えていた。

満開の季節。

時計のカレンダーをみたら、過去に戻った日の翌日なっていた。

一年という時間がたった一晩限りの夢になっていた。

俺はベットから起き上がり着替えた。

ナースステーションに外出届けを出している時
「香椎さん、今日新しい主治医の先生が来るので夕方には戻ってくださいね」

そうだ。
確かそんな話があった。

遠い記憶・・だけど昨日のことを思い出す。

主治医との定期面談
いつドナー適合者が見つかるかわからないなかでは
時間だけが過ぎていく。
手術という方法もあるけれど限りなく成功率は低い。
その成功率の低い、難易度の高い手術を成功させることができる人がいるとか言っていた。
主治医の知り合いらしく海外から来るとか・・。

時間がないとわかった中で、すがりつけるものならなんでもと思って入るけれど、
今でも何回も、期待を裏切られた。

期待すればするほど、失望も多くなる。
だから、期待はしない。


そんなことより、いまは残された時間をどう生きるか。

全ては景都のために。




「アメリカでもかなり有名ですごい腕もいい先生みたいね」
「若い女の先生で、難しい症例もかなり成功しているみたいだし、すごいわねー」

看護師さんの会話が耳にかすめつつ
ナースステーションを離れた。


今日、行ったとしても

会えるかどうかわからない。

過去にじぶんが戻った事で
もしかしたら何か影響あったかもしれない。

景都と会わなかった、ということもありうる。

過去に戻り、
景都と会うことがどれだけ未来に影響があったかわからないけれど、
少なくとも

記憶はないはず、、だから
何も変わらないと思うのだけど。


<ちゃんと、気持ち伝えてね>



自分の時間が少ないことで、
自分の気持ちを伝えてしまう事は、自分勝手だと思っていた。

でも言われた方はどうなる?
もうすぐいなくなるかもしれない奴の思いを聞かされたとして、
何が残る?

聞かされた上で、残りの時間、自分と普通にしてほしい?って伝えるのか?

それこそ自己満足。

景都と約束したけれど、
やはり、、自分の気持ちは伝えてはいけないのではないかと思い始めている。

気持ちに迷いが出ている。


病院から少しあるくと、時間を過ぎても変わらない景色があった。

ここだけは昔と変わらない。

町を見下ろすかのように、そびえたつさくらの木は変わらず綺麗な花を咲かせていた。


景都。

景都に会いたい。

景都の声が聞きたい。

景都を抱きしめたい。


俺の名前を呼んでほしい。


「、、いと。」

小さく呟く

「景都。、、、景都」


愛おしい人の名前を呼ぶ。


景都に会いたい、、、。










< 42 / 44 >

この作品をシェア

pagetop