可愛い女性の作られ方
靴を履いた加久田にレジ袋に入れたおにぎりを突き出すと、上機嫌でそれを持って帰っていった。

「……はぁーっ」
 
ため息をつきつつドアを閉め、部屋の中に戻る。

……今日の弁当は加久田におにぎり持たせてめしがなくなったから、外ランチだな。

そんなことを考えつつ冷蔵庫からヨーグルトを出そうとして、大量のビールに気が付いた。

……ビール、あんまり飲まないのに。
買いすぎ。
どーすっかなー?

またため息をつきつつ、ヨーグルトを手に冷蔵庫を閉める。
コーヒーを淹れて、朝のニュースを見ながら少しだけシリアルを足したヨーグルトを食べる。
食べ終わったら水につけとく。
着替えようとして、昨日借りていた加久田のスーツが目に入った。

……加久田のことは、どうしたらいいんだろ?
ううん。いまは考えない。会社が終わるまで、保留。

いつものパンツスーツに着替えて、髪をくくって簡単に化粧する。
家を出られるようになってちょっと迷ったけど、加久田のスーツを紙袋に放り込んだ。


出勤途中の朝早くから開いている、昔ながらのクリーニング店に寄る。

「すみません、これ、お願いします」

「はーい。
……あら、これ背広ね。
彼氏の?」

「違います。
ちょっと事情があって借りてただけです」

「そうなの?
篠崎さん、美人なのになかなかお婿さんが見つからないから、おばちゃん心配で」

「いつ、できますか?」

おばちゃんの話は長くなりそうなので、急いで止めた。

「急ぎ?」

「いいえ」

「明後日、でいいかしら?」

「はい。
よろしくお願いします」
 
クリーニング店を出て、駅に向かう。

……ここに越してきて四年。
あのクリーニング店は朝早くから夜も比較的遅くまで開いていて、便利がいいからずっと利用している。

……ただ。

おばちゃんの詮索好きが玉に瑕、だ。
昔はそれでよかったんだろうけど。


「おはよう」

「おはようございます、篠崎さん」

美咲ちゃんに声を掛けて席に着く。
加久田はまだ、出社していない。

「どうしたんですか?」

「なにが?」

「なんかちょっと、怖い顔、してます」
 
コーヒー出してくれつつ、眉間をつんつんされた。

「……皺、寄ってる?」
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