可愛い女性の作られ方
この状況で、飲みに誘ってくるこいつの気持ちがわからない。
残念会?
なんだ、それは。

「いい」

「なんで?」

「中身おっさんとはいえ女とふたりで飲みに行ったとなれば、奥さん内心穏やかじゃないだろ」

「でも、おまえは男友達みたいなもんだし」

「……友達じゃない」

無神経な裕紀の言葉に、腹の底が静かに沸騰してくる。

「えっ?」

「友達じゃない!
元彼で、だだの同僚、だ!」

「……どうしたんだ?
急に?」

呆気にとられている彼に、ああ、こいつはそれだけの男なんだって気づいた。
私の気持ちになんかちっとも気づかない。
あの当時も、いまも。

「……もう大体終わっただろ。
なら帰る」

「ほんとにどうしたんだ?」

「帰る。
じゃあな」

怪訝そうな裕紀を残して会社を出る。

話していて、無神経な裕紀にだんだん苛ついてきていた。

私の気持ちなんて。
何一つわかっていないくせに!

なぜか無性に泣きたくて、そしてなぜか、無性に加久田に会いたくなっていた。


「……おかえりなさい。
遅かったですね」

「なんで……!
おまえがいるんだよっ……!」
 
家に帰ると、部屋のドアに背を預けて、加久田が座っていた。
私に気が付くとよっこらしょと立ち上がって、優しく笑う。

「……っ」
 
不覚にも、涙が零れ落ちた。

「えっ、あっ、もう、いま泣かないでください!
とりあえず、なか、入れてください」

「合い鍵持ってるんだから、
勝手に入ってればいいだろっ!」
 
乱暴に鍵を開けて中に入ると、加久田も続いて入ってくる。
そのまま後ろ手にドアを閉めて鍵をかけ、自分の肩に私の顔を押しつけた。

「……なに、泣いてるんですか」

「……わかるかっ……!」
 
そのまま少しだけ、泣いた。
私が泣いている間、加久田は黙って、髪を撫でていてくれた。
それが無性に気持ちよくて、なぜか安心できて、涙はすぐに治まった。

「先輩。
お風呂、入ってきてください」

「……なんで?」
 
こんな時にやる気なのかと顔を見ると、にこにこ笑っていて……どうも、そういうつもりじゃないらしい。
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