可愛い女性の作られ方
……え?
なんで?
どうして?
それってデートの終わりにいうことじゃないよね?

「悪い。
今日一日一緒にいて、やっぱり無理だって悟った。
やっぱりおまえのこと、女として見られない」

「意味が……いってる意味が、理解できない」

「前からさばさばした性格だとは思ってたけど。
で、そこがいいと思ってたんだけど。
でも、俺、結婚するなら女としたい。
おまえ、どっからどうみても、中身が男だから」

「なんで……。
そんな、急に……」

ならなんで、私と付き合った?
しかもどうして、付き合い始めた頃ならまだしも、今頃?

「急じゃない。前から思ってた。
優里(ゆり)の女の部分、探してみたけど、見つけられなかった。
……おまえがほんとに男なら、友達として最高だけど」

「裕紀の……裕紀の莫迦やろーっ!!!」
 
叫ぶと同時に履いていたハイヒールの靴脱いで、投げつけていた。
唖然とした顔の裕紀に余計に腹が立って、もう片方の靴も投げつけて裸足のまま後ろもみずに駆けだした。

どこをどう、走って帰ったのかは覚えていない。
家に帰ると足の裏は擦り剥けて、血が滲んでいた。

……あんなことするから。
男だっていわれるんだ。

泣くのが嫌で、シャワーを浴びた。
だって、シャワーを浴びていれば、頬を伝う涙に気付かずにすみそうだから。

二、三日して、裕紀から合い鍵が送り返されてきた。

……ご丁寧にもあの日投げつけた靴と一緒に。

しかも、嫌みなくらい磨かれて。


それ以来、私は自分の中の男に磨きをかけることにした。
もう、あんな悲しい思いをするのは嫌だった。
だから、女を捨てて男になって、ひとりで生きていくんだって思っていた。


会議室に入ると、裕紀と目が合った。
けど、自然に逸らされた。
ちょっとむっとしたけど、……まあそれが当然というものだろう。

全員が集まり、他の班からプレゼンが始まる。
発表しているのは大抵班のナンバー2あたり。

……私がいる商品企画課には。
班が全部で四つ……正確には3.5班ある。
うち以外の班は大体六から七人編成。班長はみんな男。
うちの班は.5の部分だ。
私は女だから半分の人数の班しか任せてもらえない。
それでも、女伊達らに同期の男性と一緒に昇格して、同時に班長になれたのだから、文句はいっていられない。


最後はうちの班のプレゼン。
軽く加久田の肩を叩いて黙って頷くと、頷き返して席を立った。

練習以上に加久田のプレゼンは完璧だった。
でも結局、うちの班の案は採用されなかった。
加久田は自分の役者が不足していたことを責めていたが、そうじゃない。
ただ、私の企画がまずかっただけ。
そう、説明してやりたいのだけど、もうのどが限界で声が出ない。
ただ黙って、加久田の肩を叩くことしかできなかった。


課内で打ち上げをすることは聞いていたけれど。
のども限界だったし、夕方から熱も出てきている気がしたので、欠席して早々に帰ることにした。
私が出ないなら加久田も欠席するとかふざけたことをいっていたので、上司命令で出席させる。
不採用になった班が全員欠席など、ただいじけているようにしか見えない。
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