可愛い女性の作られ方
呼び出された会議室で勧められて椅子に座ると、そう切り出された。

「加久田君。
他の班に渡す気はあるか?」

「……どういう意味でしょうか?」

付き合っているのがばれて、一緒にできないと判断された?

「他の班で班長補として一、二年やってもらって、その後班長にしようという案が出てる」

「そういうお話でしたら、喜んで手放します」
 
……ああ。
そういう話だったら、いい話だ。
加久田は有能だから、会社だってほっとくはずがない。

「それから、塚原(つかはら)君。
そっちも課付きの事務に欲しいと話が出てる」

塚原、は美咲ちゃんのことだ。

「……私はどうなりますか?」

「事務を含めて新しい人間が五人、つくことになってる」

「なら、問題ないです。
よろしくお願いいたします」
 
篠崎班の、事実上の解散。
美咲ちゃんとは二年半、加久田とは二年、一緒にやってきた。
結構楽しかったし、……ちょっと淋しくなるな。

この件は加久田にも美咲ちゃんにも、課長から話をすることになって、少しだけほっとした。


「加久田っ!
なんで話、蹴った!?」

「……なんのことですか?」

加久田はしれっとした顔している。
その顔見たらますます腹が立ってきた。

「おまえっ!
どういうつもりだっ!?」

「どういうつもりも……」

「……とりあえず、こいっ!」
 
気が付いたら、課内の視線が集まっていた。
このままここで話をしていてはまずい気がして、加久田を屋上に連れ出した。

「なんで課長からの話蹴った?」

「……先輩には関係ないでしょう?」
 
半ばふてくされ気味の加久田にいらっとする。

「いい話だったろう?
なんでだ?」

「……優里と離れるのが嫌だから」

「はぁ?
なにいってる?
公私混同はなしだろ」

「しますよ!
公私混同!
だって、せめて美咲ちゃんが残るなら優里のこと任せられるけど、美咲ちゃんもいなくなるんですよ!
ひとりになんかできません!」
 
……うん。
加久田、熱入っているとこ悪いけどさ。
それってすっごい過保護じゃないか?

「……はぁーっ。
別に他の課に異動になる訳じゃない。
それに、おまえたちが来る前は、それはそれでやっていた。
だから別に問題ない」

「……だって、優里に変な虫がついたらいやなんです」
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