可愛い女性の作られ方
いじけているおまえって妙に可愛いな。
って、そんな場合じゃなくて。

「安心しろ。
おまえみたいな奇特な奴は、そうそういないから」

「……はぁーっ。
それってちょっと酷いいわれようですけど。
優里は知らないんです。
……最近、可愛くなったって課内で話題になってること」

「そうなのか?」
 
寝耳に水、とはまさにこの事だ。

「そうなんです」

「まあそれはそれ、これはこれ、だ。
私としてはせっかく加久田は有能だから、これから先もしっかり出世してもらいたいし。
だから、な」

「……じゃあ、話、受けてもいいです。
その代わり」

「その代わり?」

「優里、結婚してください」

「ああそんなことか。
…………って!
なにさらっといってるんだ!?」

……はぁっ!?

「突然なにいいだすんだ、とか思ってる顔してますけど。
突然じゃないですよ?
ずっと優里と一緒にいるって約束したじゃないですか?
いまのままでいいと思ってたんですか?」

「それは……」

「結婚すれば。
俺は他の奴が優里に手、出してくる心配しなくていいし。
優里だって、俺が女の子と話してて、変な嫉妬して、自己嫌悪に陥らなくていいでしょう?」

「……それはそうだけど」

「それともなにか、問題があるんですか?」

じーっと、加久田が私の眼鏡のレンズ越しに見つめてくる。

「……ない」

「なら決定ですね」
 
にこっと笑うと……加久田の唇が、私の唇にふれた。

「……!
ここ、会社!!」

「誰も見てないから、問題ないでしょう?」
 
……ううっ。

前から思っていたけれど、私は完全に、加久田に手玉にとられている。
結婚してからも、この関係が続くんだろうなー。


翌々週末。
加久田のご両親にご挨拶にいった。
どっちの両親に先に挨拶に行った方がいいのか協議の結果、正式とかは置いといて、ハードルが高い方を先に済ませてしまおう、ということになった。

きっとうちの両親は、私がそういう相手を連れてきたとなると、ほぼ無条件で諸手を挙げて喜ぶと思うから。

「ねえ、か……貴尋。
おかしく、ない?」

「よく似合ってますよ。
ほら、ちゃんと背筋伸ばして」

「……うん」
 
今日着ているのは。
先週、か……貴尋が今日のために選んでくれた水色のワンピース。
スカートなんて普段ほとんど履かないから、足がすーすーして落ち着かない。
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