【完】Mrionation


溜息の出るような、毎日。
ちょっとでも時間が出来れば、私の好きなお店のプリンやプチシューを差し入れて、忙しい時間を癒やそうとする彼。


でも、ある日…その優しさが少しだけ怖くなる。

こんなにも、愛を過度に与えられると…人は臆病になるのかもしれない。


そんな中で、私は日々のストレスの為に体を壊した。
病名は、ごくごく軽い、脳梗塞。
普段から頭痛持ちだから、あまり気にしたこともなかったし、自覚症状もなかったから正直どこか他人事で…。


気付いたら、病院に入院することになっていて、休職することにもなっていた。


小さい頃から、入院することが多く、もしかしたら人生の半分は病院にいたんじゃないかというくらい、入院歴のある私は真っ白い部屋は馴染みがあるけれど、どうも好きにはなれなかったから、彼に言って二人で買ったテーブルクロスを持って来てもらった。

個室の彼方此方に、彼との愛の結晶が置かれる。
そのことに喜びを感じ、大いに自慢したくなるのと同時に…灰色に鈍る意識。
どうしようもなく、虚無感が溢れる。


だけど、そんな私に気付くこともなく、彼は、私に愛をくれることを止めない。


狂おしい、愛おしい、恋しい、けれど…切ない。


何故?


分からない。
でも、私の中で何がか壊れた。


彼への想いを深めようとすればするほど、頭の中に霞が掛かったような、焦る気持ちが現れて…彼が遠く感じてしまう。



「好き、なのに…な」


ぽそり、呟いて白いシーツをきゅうっと掴んだ。



彼が愛を囁やけば囁くほど、素直になれなくなる。
だから、私からの愛が伝え難くなっていった。
駄目だと思っても、一度言えなくなると上手く舌の上に、言葉を転がすことが出来ない。


「愛してる」

「好き」


少しずつ少しずつ、その言葉が行き来しなくなった。


そうして…私達の間に、徐々に溝みたいな物が出来た。

どうしても、崩せない溝みたいな物が………。




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