【完】Mrionation


「精算、して欲しい…」


私はとうとうこの瞬間が来てしまったと思った。
でも、分かりたくなかった。

わざと分からないフリをして、彼を見上げる。


「なにを…?」

「今までの、時間を…」


なんでなんだろう…。

遠回しなんかじゃなく、ストレートに別れようと言ってくれたら、素直になれたような気がしたのに…。


「ごめん…」


そんな彼の悲しい優しさが、とても心を締め付けて…。
すぐには返事が出来なかった。


「考えさせて……」

そう言って、身を翻す私。
何度この背中を、彼に見せただろうか。
…けして、追いかけては貰えない、淋しい背中を…。


自分の家に戻った私は、沈む心を持て余していた。
でも、やっぱり競り上がってくる思いには勝てず、外に出る。


貰った指輪も時計もブレスレットも……。

勢い良く全て空に放り投げて、それがみんな落ちてきたのを見てから、虚しくて虚しくてうずくまって泣いた。

フラれて泣くような軟な女なんかじゃないと思っていたけど……染み入る夜空の温度に、私は声を殺して泣きじゃくった。


「ごめん、って何?」


好きだと初めて告げられた時に約束したことは、全部マボロシに変わり、私の息の出来る場所も失くなった。


「なんで…?中途半端な優しさなんかいらない、のに…」


一人、呟いて涙を零して、それが凄く惨めで気が狂いそうだった。

見たこともない、彼の微笑み。
私よりも遥かに幸せそうな仕草。


それを見せ付けられて、縋り付けるほど…心は強くなかった。

会えなくなってから、感じた彼への想いの重み。
それが今、こんな形で胸にくるなんて思わなかったから…。

「ばかなのは…私なんだね…っ」

ボロボロ溢れる涙は頬を伝うことなく地面に落ちて。

そのまま温度さえ私に与えずに、吸い込まれていく。

だから、温度を感じられない分、痛みは心に残らない。
擦り切れそうなくらい、彼を好きだと求め狂い踊るのに…。


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