キリンくんはヒーローじゃない


今回ばかりは、わたしがキリンくんを庇って助けるつもりだったのに、また容易く彼に助けられてしまった。


悔しいけど、絶対的にわたしの味方となって助けてくれるキリンくんを見るのは、最高に格好よくてニヤける頬を抑えられない。


「狐井さんが、僕の手当てをするって口火を切ってくれたから、勇気をだして本心を伝えることができたんだ。ありがとう」


わたしは決して、感謝されるようなことをしたわけじゃない。このまま綿貫さんに手渡して、後悔をしてしまうのが嫌で、間に割って入っただけ。それはきっと、ただのわたしのエゴだ。


「湿布、机に置いておくから。気持ちが落ち着いたら声かけて」


キリンくんは、ベッド脇に放られてあった椅子を運んできて、目の前に背を向けて座る。


ほんの一センチほど開かれた窓から、爽やかな風が吹き抜ける。翻ったカーテンの隙間に、天辺に登った太陽が眩しく映って、思わず目を伏せた。


穏やかな気候だった。まるで、世界にわたしとキリンくんの二人しか存在していないかのような、そんな錯覚さえ覚える。


「…黄林くん、洋服捲ってくれる?」


机に乗せてあった湿布を手に、晒されていく艶やかな素肌を、衣擦れの音と共に見守る。


傷跡が全くない綺麗な背中だった。臀部より少し上の、骨が出っ張っている部分にそれはあった。指先で、押すように触れると、丸まった背がびくり、と鋭く反応する。


「…やっぱり、青くなってるね」


惜しいと思った。せっかくの白くて柔らかな肌が、不慮の事故によってこうまでして汚されてしまうなんて、わざとじゃないにしても、申し訳なさに湿布を持つ指先が震える。

< 109 / 116 >

この作品をシェア

pagetop