キリンくんはヒーローじゃない


わたしには絶対に敵いっこないって分かっていても、努力する前に諦めたくない。


キリンくんが、わたしのために精一杯変わってくれたように、わたしもキリンくんのために、魅力的な女の子に生まれ変わろう。


そうと決まれば、落ち込んでいる暇はない。未だ興奮冷めやらぬ階段の踊り場から、踵を返し、素早く駆け降りていく。


「かわいくなって、もう一度、振り向いてもらおう」


下駄箱の扉を開いて、靴を取り出し、上履きをしまう。携帯の検索エンジンには、かわいくなる方法、と簡潔に入力して、ネットの記事を幾つか吟味する。


今のわたしにできること、メイクはやり方を覚えないと難しそう。制服のアイロンがけなら手軽だしできるかな。シャンプーやリンスは、自分の髪に合わせて揃えて、洗い方、乾かし方を工夫したら、少しは女の子らしくなれるかも。


悩んでいてもしょうがないし、実際に試して見て、決めよう。爪先を軽く二回、トントンとして、履き直す。


モヤがかった心が、明確な目的を持ったことで晴れ間に変わる。きっと、未来は明るいはず。失敗なんていくらでもしていい、大事なのは挑戦することなんだ。

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