この空の下
廊下の先にある小さな個室。

母は今日もそこに座っていた。


「林田さん。娘さんが、羽蘭ちゃんが見えましたよ」

看護師の声でチラリとこちらを振り向いた母。

ずっと部屋の中にいるせいか、肌は真っ白で髪も白髪に覆われている。


「母さん」

名前を呼ぶと私の方に視線が来た。

しかしそれだけ。

母の視線は私の周りをさまよう。


「ほら羽蘭ちゃんよ。わかる?」

「はい」

小さく返事をするけれど、きっとわかってはいないだろう。


私が母に最後に名前を呼んでもらったのは、まだ小学生の頃だった。

病気だとはわかっているけれど・・・
< 344 / 405 >

この作品をシェア

pagetop