君を待った七年間〜一匹の犬の物語〜
立ち上がっていたお母さんが玄関に座り、僕を抱きしめる。その刹那、僕の体が温かいもので濡れた。これもヨースケくんから聞いたことがある。涙だ。人が悲しい時に流すもの……。

どうして、お母さんは泣いてるの?泣かないで。ほら、僕がいるよ。

そう僕は伝えようとするけど、お母さんはずっと泣き続けたまま。お父さんも暗い表情で唇を噛み締めている。

「ヨースケが……ヨースケが……車に……わぁぁぁ!!」

お母さんが大声で泣き叫ぶ。僕はわけがわからず、お母さんやお父さんのそばにいることしかできない。

そのまま、夜が明けた。



ねえ、どうしてお父さんもお母さんも悲しんでいるの?

ヨースケくんはどこに行ってしまったの?

あの大きな箱みたいなものは何?どうして、ヨースケくんの大きな写真が飾られているの?

訊ねてみるけど、答えは返ってこない。だって、僕はお母さんたちとは話せないから。

ヨースケくんは、夕方になっても夜になっても帰ってこない。雨が降っていても、冷たい風が外で吹いていても帰ってこない。
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