対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「わかったなら、二度と拡樹さんに近づかないことね。次は頭からワイン浴びることになるわよ?
あなたの家じゃ、一生かけても口にできないワインでしょうけどね」

歯を食いしばっていたが、我慢することが馬鹿らしくなってきた。蛇口をひねると勢いよく流れ出した水。その出口を手で抑え、3人めがけて水を飛ばした。勢いよく放たれた水は令嬢たちを目がけて直線を描く。

「キャー!」

見事なまでに全身ずぶ濡れになる令嬢。顔にかかった水を手で雑に拭った彼女たちは、すごい目で恵巳のことを睨みつけた。

「何するのよ!私たちにこんなことして、ただで済むと思ってるの!?

知ってるわよ。あんたの家の仕事、経営が危ないんでしょ?拡樹さんに泣きついたところで、父に言えば簡単に潰せるんだから」

「さっきから父、父って。父親の力借りないと何もできないの!?
私のことが気に入らないんなら、嫌味でもなんでも好きなようにしたらいい。全部受けて立つんだから、せこい手使ってないで、正々堂々挑んできなさいよ」

恵巳の威勢の良さに、3人は一歩後ずさる。これくらいではまだ言い返して来そうなものだが、一斉に口をつぐんだのには大きな訳があった。

「…恵巳さん?」

入り口から様子を窺うようにこちらを見ているのは、会話を終えたであろう拡樹。
そんな拡樹に駆け寄ったのは、恵巳ではなく令嬢の方だった。
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