対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「拡樹は息子の中でも出来が悪いが、唯一評価している点がある。あいつは人の懐に入るのが上手い。人は警戒心を解かせる術を持っている。

君も例外ではなかったようだな。

だが、大事なのは結果だ。手柄を上げられなかったのだから潔く撤退する。拡樹がそうすると選んだんだ。もう君と会うこともないだろう。

わかったらお引き取り願えるでしょうか。私はまだ仕事をしなければならないので」

「まだ話は終わって…」

部屋の隅で待機していた執事がさっと恵巳のもとへ動いた。
まだ言い足りないことがあった恵巳だが、有無を言わさない執事に連れられ、屋敷の外へと追い出された。

こんなこと、信じたくなどないが、泰造には大人しく身を引けと言われてしまった。このまま反発を続けたところで、誰の為になるというのだろうか。

交流館に魔の手が伸びるかもしれない。
宮園泰造なら、拡樹にまで制裁を加えかねない。

そんな真っ暗な考えばかりが心を支配していた。これが泰造のやり方だとわかっていても、その闇を振り払うことはできなかった。
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