対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
17.揺られる道のり
泰造に呼び出された執事は、その指示に驚きを隠せなかった。

「泰造様。高宮様には、本当にお断りの連絡を差し上げてもよろしいのでしょうか」

新しい婚約者との食事会を抜け出した拡樹。
父、泰造の怒りをかって縁切りされてもおかしくないほどの大問題だった。
それなのに、婚約相手の家に断りの連絡を入れるというのだ。
つまり、拡樹に味方したということになる。

「構わん。拡樹はああ見えて頑固なところがある。どうせ、あの小娘のところにでも行ってるんだろう。

あいつの反抗は今に始まったものではない。ここ最近は順応になっていたのだけどな。

小関家の隠れ財宝の調査を進めるくらいのことをやってのけるといいんだが、あいつには無理だろうな」

威圧も威厳もいつも通りだが、どことなく父親の顔になっている泰造に、執事は腑に落ちるものがあった。

「つまりは、拡樹様と恵巳様の結婚を認めるということですね。泰造様の指示に従うだけの拡樹様は、少し物足りないということでしょうか」

宮園家に長く仕えている執事だからこそ言える鋭い考察。泰造の部下が口を滑らせてこんなことを言ってしまったら、真っ先に追い出されるに違いない。

「余計な詮索はよせ。息子の人生に構っている時間など無駄なだけだ」

「かしこまりました」

執事は深々と一礼し、泰造の部屋を後にした。1人になった泰造は、ほんの少し口角を上げてパイプをふかしたのだった。
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