対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「もう、なんで起こしてくれなかったんですか!このままだと遅刻ですよ」

恵巳と拡樹の2人は、駅までの道を早足で歩いていた。

「あまり気持ちよさそうに眠っていたので。それに、僕は恵巳さんの寝顔が大好きだと言ったじゃないですか」

「それでも起こしてください!」

「…善処します」

国立博物館で大規模な歴史展が開催される。そこには拡樹の好きな刀も、恵巳の好きな和歌も展示される。そうあっては行かないはずがなかった。

なのに、拡樹は朝から恵巳の設定した目覚ましを止め、寝顔を眺めていたのだ。

「電車に間に合わなかったら拡樹さんのせいですからね。
私も拡樹さんが好きだって言ってる刀見たいのに」

「一緒に見てくれるんですか?では急ぎましょう。
刀にも物語がありますからね。楽しみですね」

お互いに好きなものの話題で盛り上がりながら、なんとか電車に乗り込んだのだった。
電車に揺られ、恵巳は小さなころから最も見てきた和歌を思い出した。
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