対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「っ…」
声を出そうとした瞬間、ヴーヴーと、拡樹の胸ポケットで携帯の振動が鳴った。スーツの内側に手を入れて携帯を取り出すと、画面を一度叩いて、通話を切ってしまった。
「ちょ、出なくていいんですか!?」
あまりに当然のように切られた通話に、恵巳は目を疑った。
「どうせ仕事場からの呼び出しです。僕らの時間を邪魔していい権利は誰にもありません」
まるでおとぎ話に出てくる王子様のようなキラキラした雰囲気で見つめられる恵巳だが、さすがにこの状況で流されるわけにはいかなかった。
「駄目ですよ。仕事抜け出して来たんでしょ?だったら早く戻らないと。拡樹さんがいなくちゃ、電話の相手だって困るはずです」
「え…?」
背中を押され、出口に歩かされていた拡樹は、不意に呼ばれた自分の名前に振り返った。
「今、呼んでくれましたよね?」
「…聞き間違いじゃないですか?」
「間違えるはずないじゃないですか!おかげで仕事頑張れます!行ってきますね」
ただ名前を呼んだだけだというのに、信じられないほど喜んでいる。あまりの喜びように、恵巳もつい頬が緩んだ。
「はい、行ってらっしゃい」
大きく手を振って車に乗り込む拡樹にこたえ、恵巳も手を振り返す。発進した白い車から目が離せず、右折して見えなくなるまで見送っていた。
声を出そうとした瞬間、ヴーヴーと、拡樹の胸ポケットで携帯の振動が鳴った。スーツの内側に手を入れて携帯を取り出すと、画面を一度叩いて、通話を切ってしまった。
「ちょ、出なくていいんですか!?」
あまりに当然のように切られた通話に、恵巳は目を疑った。
「どうせ仕事場からの呼び出しです。僕らの時間を邪魔していい権利は誰にもありません」
まるでおとぎ話に出てくる王子様のようなキラキラした雰囲気で見つめられる恵巳だが、さすがにこの状況で流されるわけにはいかなかった。
「駄目ですよ。仕事抜け出して来たんでしょ?だったら早く戻らないと。拡樹さんがいなくちゃ、電話の相手だって困るはずです」
「え…?」
背中を押され、出口に歩かされていた拡樹は、不意に呼ばれた自分の名前に振り返った。
「今、呼んでくれましたよね?」
「…聞き間違いじゃないですか?」
「間違えるはずないじゃないですか!おかげで仕事頑張れます!行ってきますね」
ただ名前を呼んだだけだというのに、信じられないほど喜んでいる。あまりの喜びように、恵巳もつい頬が緩んだ。
「はい、行ってらっしゃい」
大きく手を振って車に乗り込む拡樹にこたえ、恵巳も手を振り返す。発進した白い車から目が離せず、右折して見えなくなるまで見送っていた。