拾ったワンコが王子を連れて来た
手を離そうとする私に対して、生田さんは繋いでいる手に力を入れ、離させてはくれない。
ねぇ、マジでやめてよ!
何考えてるの⁉︎
「生田さん!」
私の訴えなど知らないと言わんばかりに、私の手を引いてエレベーターホールへと向かう。エレベーターホールには、出勤して来たばかりの大勢の社員が、エレベーターを待っていた。
その中の女性が、生田さんに気づき、彼を “ 王子 ” と呼んだ。
すると、その場にいた人達の視線を一斉に浴びる事となった。
うっわぁー…
この状況…私には耐え難い…
大勢の視線に、緊張と戸惑い。そして、何を言われるかと恐怖さえ感じていると、なんて事はない。
彼等の興味は、生田さんにのみ向けられた。
『王子、今日はどちらに?』
「ちょっと上にね!」
『あ、王子、先日の件でご相談が?』
「明日にでも、こちらから連絡します」
『王子、タカハタファームとの契約がちょっと…』
「分かりました。私の方から高幡さんには、連絡しておきます」
えっ!
生田さんが、王子って呼ばれてるのは知ってるけど、でも本社の人は本人目の前にして、王子って呼ぶの?
普通、呼ばないでしょう?
って言うか、本人も王子って呼ばれる事、受け入れてるし…
それになんなの?
私がここにいるのに、皆んな私には無視なの?
まぁ、触れられない方が良いと言えば良いんだけど…
生田さんへ一通り仕事の質問が終わると、ひとりの女性が『王子、そちらの方は?』と聞いた。
まさか、ここに来て?
ずっと手を繋いで居たのに?
すると、生田さんは微笑んで「今はナイショ!」と、言った。
この微笑みが、女性陣にとって堪らないらしく、女性陣はキャーキャーと騒ぎだした。
なにが、“ 今はナイショ! ” っよ!
私達は、ただの同僚で、それ以上でもそれ以下でも無い。まぁ強いて言うなら、家主と居候の中でしょ?
そんな事より、生田さんって本社の仕事もしてるって事?にしても、この人達も何考えてるの?
あなた達、学生じゃないんだから場をわきまえなさいよ!
ここは会社なんだから!
でも…ホントに生田さんって男女問わず人気なんだ…?
彼の顔を見上げると、生田さんは苦笑しており、この騒ぎをなんとか鎮めようと思ったらしく、自分の口元に人差し指を立てた。
「他の方のご迷惑になります。お静かに願います」と言った。
確かに、一緒にエレベーターを待ってる人の中には、お客様専用のネックホルダーを掛けている人もいた。