拾ったワンコが王子を連れて来た
暫くして、エレベーターの到着音と共に開くドア。
その小さな箱の中へと大勢の人が吸い込まれて行く。
だが、私の足は一歩も動かない。
「どうした?」
「ご、ごめんなさい…ちょっとトイレに…」
「トイレ?トイレは…」
「大丈夫です。分かりますから、それよりこの手離してくれます?」
「心配だから付いて…」
「心配だからって、女子トイレの中まで付いて来るんですか?」
「……ひとりで大丈夫?」
「トイレに行くくらい、何をそんなに心配するんですか?
子供じゃあるまいし?」
「わかった…じゃ、ここで待ってるから?」
生田さんの手が離れると、トイレへと駆け込む。
ハァハァハァ…
もう、大丈夫だと思ってたのに…
あの車が、駐まってるのを見たせいかも知れない。
この中(社内)にいる人が、私を…
ううん。何かの勘違いよ!
本社の人間が、そんな事する意味がないもの。
鏡に映る私に頑張れと言って、喝を入れる為に、両手で頬を叩く。
「すいません。お待たせしました」
「元気な子出た?」
「は?」
「便秘だったんでしょ?」
生田さんは、私の頬が赤いから、トイレで力んで出してきたのだろうと言う。
「バッカじゃない! 違います!
もし、そうだとしても、デリカシーなさすぎ!」
「そっか…良かった元気になって…」
え?
「さぁ、行こうか?」
またしても、手を繋ぐ生田さんに、やめて欲しいと抗議すると、“ じゃ、肩を抱いた方が良い? ” と聞かれ、渋々手を繋ぐ事にした。