拾ったワンコが王子を連れて来た

立ち上がりかけた私は、座り直し「はい」と、返事をした。

「稀一郎は、旅館は継ぎとうないゆいよるけど、あんたは若女将になる覚悟があるとゆうことかいかねぇ?」と、真っ直ぐ向けられた厳しい視線に、怯みそうになる。

「いいえ。
今の私には、若女将になる覚悟は有りません。稀一郎さんからは、今の仕事は辞めるつもりないと聞いてますし、私も今の仕事が好きですので…
ただ、稀一郎さんが旅館を継ぎたいと言うのであれば、若女将に相応しい女性になれる様、努力したいと思います。

今回、稀一郎さんには、ご家族へご挨拶させて欲しいとだけ言って、無理に連れて来て貰いましたが、本当の事を言いますと…
稀一郎さんにはちゃんと向き合って欲しかったからです。
ただ、お姉さんと押し付けあっているだけでなく、女将さんや板長が大切に守って来た、この旅館の事を、お姉さんと話し合って欲しと思ったからです…」

「まだ、嫁にも来とらん遠所者が…なにを偉そうに…」と言う、女将であるお母さんの厳しい視線が突き刺さる。

確かに…私はよそ者だ。
他人様の家の事を、とやかく言える立場ではない。
そんな事百も承知してる。
でも、このままでは間違ってると思うから…

私は、それ以上何も言えず謝罪してその場から逃げた。



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