拾ったワンコが王子を連れて来た

彼が部屋を出で行った後、直ぐに部屋の電話で仲居さんに連絡をし、仲居さんの着物をお借りしたうえ、着付けまでお願いした。

「すいません…お忙しいのに、着付けまでお願いして…」

「良いんですよ。女将からも聞いてますから。
でも、無理はなさらないで、辛い時は言ってくださいね?」

「有り難うございます」

私に仕事を教えてくれるのは、私の部屋付きの仲居さんで節子さんだった。
着物を着つけて貰うと、お客様をお迎えする為に、直ぐに玄関ロビーへ向かった。

「いらっしゃいませ。お荷物お預かり致します」

お客様をお迎えした、ど初っ端から仲居の仕事は、大変な仕事だと思いしらされた。

ベルである私は、お客様の荷物を運ぶ事には慣れている。
でも、ホテルでは荷物を運ぶ際は、部屋までラゲッジカートを使って運ぶ。
それは、重労働を軽減する為でなく、鞄の取っ手が取れ掛かっているかもしれないし、キャスターが壊れかけているかも知れない。
あくまで、お客様の大切なお荷物の破損を防ぐ為なのだ。

だが、ここにはラゲッジカートなど無い。重そうなキャリーバックも取っ手を確認し、キャスターを使わず、取っ手を持って運ばなくてはいけない。それも顔はにこやかにだ。

お客様をお部屋に案内した後は、お茶を淹れて差し上げながら、お客様との会話の中からお客様の情報をここでお聞きする。
アレルギーなどについては、予約の際に確認しているそうだが、自分が担当するお客様の事は、間違いなの無い様に、再度確認するのだ。
アレルギーだけでは無く、苦手な食べ物や記念日など、お客様との何気ない会話の中から、すこしでも情報を収集するという。

仲居さんの仕事は、ホテルで言うならバトラーと言えるかもしれない。

そして、1組のお客様が終われば、休む事なく次のお客様のお迎え向かう。
仲居が担当するのは1組のお客様だけとは限らない。かき入れ時となれば、幾多もの部屋を担当するそうだ。

お客様のお迎えに始まり、お食事の仕度、お客様をお見送りして、すぐさま部屋の掃除にかかる。
そして、またお客様のお迎える。

ホテルでは、仕事毎に分担される仕事を、ここでは全てひとりでこなし、どんなに忙しく大変でも、お客様への気配りは絶対に忘れず、お客様に求められる以上の、もてなしをしたいと節子さんは言う。

これが、
由緒有る人気旅館と呼ばれる所以(ゆえん)だろう。





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