一筆恋々

【七月二十九日 静寂より手鞠への手紙】


前略
先日の夕立は激しいものでしたが、私は丁度図書館に居て、雨には当たっておりません。
お気遣い有難う。

(ページ)(めく)る音が聞こえない程の雨だったので、学校を終えているはずの貴女は、もう家に着いただろうかと考えていました。
濡れずに済んで良かった。

呉服屋に生まれた身として、着物を大切に着てもらえることは嬉しいですが、確かにお姉さんと貴女では似合うものも違うでしょう。

貴女なら柄よりも色の鮮やかさが目立つものの方が良いと思います。
色も紫や紅のように重いものでなく、明るく優しいもの。
賑やかに動く人だから、その動きに添うように柔らかく軽い生地が良いと思う。
縮緬でも良いけれど、今の季節なら麻ではなく、クレープやジョーゼット
(廃棄)


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