エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「やめてよ……っ。この間は〝忘れた〟って嘘ついたくせに」

「……ごめん」と一泊遅れて落ちてきた声に、胸が掴まれたみたいに鳴く。
芝浦への想いがたまった胸が、窮屈で苦しくて仕方なかった。

は……と吐き出した息が、自分でも泣いているみたいな音だと思った。
芝浦の胸に置いたままの拳を、包むように握られ、肩が跳ねる。

たったこれだけの触れ合いで、心臓がどうにかなるんじゃないかというほどに反応していた。

「私が好きだとか言ったから、それを気にしてるなら、全然……」
「違う」

即答した芝浦が「そもそも、俺が桜井を好きになったほうが絶対に先だし、桜井に好きだって言われて流されてるわけじゃない」と続ける。

「だって俺、ずっと桜井のこと口説いてただろ。相当特別扱いしてたと思うのに、少しも気づいてなかったのか?」

最後の部分は、やや呆れたような声で聞かれた。
「そんなこと言われたって……」と顔を上げると、声とは裏腹にやわらかいまなざしが私を見ていた。

優しい微笑みを浮かべた芝浦が、私の目に溜まったままになっていた涙を拭う。

その眼差しも表情も、仕草も、私に向けられるすべてに愛が溢れているようでカッと体が一気に熱を持ったとき、カツ……というヒールの音が聞こえた。

「先輩も芝浦さんも、ここが社内って覚えてます? まぁ、その上で続けるなら黙って見てますけど。ついでに見張っておきますよ。どうします?」

慌てて離れた私たちを見て、沼田さんがニヤニヤと笑みを浮かべていた。



< 121 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop