エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

嫌じゃない。嫌じゃないけど……心の準備が、まだなにもできていない。
だって芝浦の気持ちを知ったのはさっきのことで、キスだってまだだし、芝浦が本当に私のことを好きだっていう実感だって……と考え、そうでもないかもしれないと思い直した。

実感だったら、今まで散々してきたはずだ。

芝浦がくれる特別な優しさを、私は何度も何度も受け取ってきたんだから。
そのたびに、もしかして……と甘い期待を膨らませていたんだから。

そう考えると急だとも言い切れない気がして、返事に困る。

ただ戸惑うしかできない私を、芝浦はしばらく見ていたけれど、そのうちにふっと笑いスマホを何度かタップした。

「時間切れ。今、タクシー呼んだ」
「え……っ」
「俺には嫌がってるようには見えなかったから、このまま連れ帰る」

芝浦の手が、ふいに私の手を取る。
そのままするすると手の甲を指先でくすぐるように撫でられて肩が跳ねそうになった。

伝わってくる熱に、どうにかなりそうだ。

降り止まない雨の中、ゆっくりと一本一本の指を絡めとられ握られる。
キュッと握りしめられ恥ずかしく思いながらもチラッと見上げた途端、顔を寄せた芝浦にキスをされる。

一瞬とは言え、ここは外だ。しかも会社の最寄り駅前。誰に見られるかわかったもんじゃない。

そう注意してやりたかったのに……芝浦がいたずらっ子みたいに笑ったりするものだから、怒る気は失せ、思わず私も笑ってしまっていた。


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