エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「更衣室で言われたから。『指導係だったら社交辞令だとか建て前くらいきちんと覚えさせろ』って。『っていうか、指導係だからって自分が一番白坂くんに近いとか思ってないよね』とか、わけのわからない嫌味まで言われて……八つ当たりもいいところだよ」

沼田さんに視線を移し「誰かさんがそういうのは『桜井さんにお願いします』とか言ってるせいで全部私にきてるの」とチクチク言う。

すると彼女は「私、面倒なことはお金積まれない限り引き受けないって決めてるので」と作りものだとわかる笑顔を浮かべてからスッと仕事に戻った。

その様子に改善の余地はないと諦め、ため息を落としてから、私もパソコンを起動させる。

白坂くんが入社して、本店営業部に配属されたのが四月。今が七月第一週。その約三か月半で、白坂くん関係の窓口は、指導係の私になりつつある。

最初こそ、白坂くんが食堂にいると我先にと話しかけてくる女性社員も多かったけれど、今はゼロに近い。

白坂くん本人があまりにそっけない態度しか返さないからか、他部署の人間に対して〝話しかけないでください〟オーラを出しているからか、声をかけてくる女性社員は徐々に減っていった。

けれど、彼に興味をなくしたわけではなく、本人がダメなら周りから攻略しようとルートを変えただけのことで……そして、その相手として私が選ばれている、というのが現状だった。

『白坂くんって恋人いるのかな』や『休日とか何して過ごしてるの?』といった質問の宛先から、振られたあとの八つ当たり先まで、幅広いサービスの提供も求められている。

言うまでもなく、迷惑以外のなんでもない。

……といったように、ある意味〝大型新人〟の白坂くんの取り扱いに困っている。

今までは本店営業部なんて、本社の社員には見向きもされなかった。むしろ、特別な資格が必要ない窓口業務や事務作業しか行わないためか、若干見下されている感じすらあった。

それなのに、白坂くんが配属されて以来、注目の的となってしまい……とても仕事がやりにくい。

それがふたつ目の悩みだった。


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