エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

お客様がいない状態であれば、ある程度の雑談はオーケーというのは齢五十になる部長の考えだ。私語が許されないガチガチに緊張した空間よりも、軽い冗談が交わせる空間で取り掛かる仕事のほうが良質だという考え方は私も賛成だった。

『お互いの性格を理解しておいた方がフォローもしやすい。無理にとは言わないが、お客様がいない時間であれば私語は禁止としない』

いつかの朝礼のとき、そんな話の最後、『もちろん、限度はあるからな』と、部長が沼田さんを見て付け足したことを、沼田さんが気づいていたかどうかは定かではない。

「見た目の良さに興味がないなんてことあるわけないよね。ちょっと、そのへんのこと詳しく教えてよ」

それこそ興味津々といった表情で聞く沼田さんに、白坂くんは淡々と答える。

「まぁ、いいに越したことはないですけど、それだって優劣というよりは個々の好みの問題ですし。それに性格が好きだったら、見た目だって可愛く見えてくるかと。なんだって、ただの入れ物よりも中身のほうが重要じゃないですか」

「入れ物より中身って……はー、言うねぇ。白坂くんって本当に二十二歳? 考え方が達観しすぎてない? 一瞬、住職と話してる気分になった」

顔を歪めた沼田さんに、白坂くんは「いや、普通です」と返事をしてから私に視線を戻した。

「それより、桜井さんはなんで俺が振ったこと知ってるんですか?」

当然の疑問だった。
白坂くんの身に起こったプライベートな出来事を、私が知っているのはおかしい。

白坂くんにも折を見て、社内を駆け巡る噂の速度について話しておかないと……と考えながら答える。


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