エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない


「白坂くんは、やり残した仕事を気にして電話で確認を入れてくれたんだよ。社長の甥っ子だとか関係なく、新社会人としてきちんとしてる。もしも白坂くんが社長と血縁関係になくたって、私は同じように褒めてた」

いつもみたいに流せなかったのは、仕事でいろいろあったからなのか、それともこんなことを言い出したのが他でもない芝浦だったからなのか。

同期として、お互いのことをそれなりに分かっているはずなのに、芝浦にそんな風に見られていたことが悔しかったのかもしれない。

社長の甥っ子だからって特別扱いするような人間に思われていたことが、どうしょうもなく悲しくて、無意識に唇をかみしめていた。

迷いながらも必死に指導してきた後輩の長所を褒めてなにが悪い。
気まずさを感じながらも視線を上げると、芝浦と目が合う。

その瞳に不安が揺れて見えたけれど、気づかないふりをして口を開く。

「心配して待っててくれたことは、ありがとう」

すぐに目を逸らし、わずかな間のあとで告げる。

「でも今日はひとりで帰る」

立ち止まったままの芝浦の顔は見ないで、すれ違うようにして歩き出すと「桜井」と腕を掴まれる。
その腕を振り払い、振り向かないままで言う。

「ひとりで帰りたいの。お疲れ様」

思いの外、腕に力が入ってしまった。
バシッと音が立つほど強く振り払ってしまったことに、少しの罪悪感がこみ上げながらも、そのまま足を進める。

芝浦の視線は背中に感じて気になったけれど、一度も振り返らなかった。

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