エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「わりと勝ち気でいつもカラッとしてるのに、急にあれだけ泣かれたら誰だって驚くだろ。案外、生きるのが下手なんだとも思った」

柔らかい声で話す芝浦に、一瞬目を奪われてからハッとして笑顔を作った。

「生きるのが下手って……まぁ、でも気にして来てくれたならありがとう」

返ってきたのは「ん」というとても素直な声と、芝浦のものとは思えない優しいまなざしだった。

その居心地の悪さから逃げるようにコップに手を伸ばし、アイスコーヒーを飲み込む。

チラッと盗み見ると、芝浦はそのへんに転がっていた犬のぬいぐるみを指先でいじっていた。
その横顔は間違いなく芝浦なのに、どうしてここ数か月こうも戸惑ってしまうことが多いのだろう、と考えてふと気づく。

そもそも私が今まで知っていた芝浦はただの一面にしか過ぎなかったのかもしれない。

私が知っていたのは、ただの同期として見せる顔だけだ。
人をからかうような気軽さはあるのに、あまり自分自身の喜怒哀楽を表に出さない。割と何事も一歩引いたところから見ているような、捕まえようとした途端ふわふわ宙を泳いでいく風船みたいな、そんな男。

一定の距離感を保ち、必要以上は決して近づかないし近づかせない。
それが芝浦の印象だった。

だから、最近やたらと気にかけてくれていたり、優しかったりすると〝意外〟だとか〝違和感〟だとか感じていたけれど……もしかしたら、私たち同期に見せていなかっただけで、そんな部分は芝浦のなかにずっとあったのかもしれない。

それを、なぜかここ数か月、私には見せてくれていたってことだろうか。

……でもなんで?
じっと見すぎたからか、ぬいぐるみをいじっていた芝浦が私を見る。
ドキッと跳ねた胸を誤魔化すように「そういえば」と話題を探し、視線を泳がせる。


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