エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「えーっと……そうだ。私これから夕飯作ろうと思ってたところだったんだ」

目に留まった置時計は、十九時を回っていた。

「芝浦はどうする?」

聞きながら、たぶん、今までの芝浦なら帰るだろうなと思った。
ただの同期としての一面しか見せてなかった頃の芝浦なら、これを合図に〝じゃあ俺は帰るかな〟と腰を上げるはずだ。

そう考えながら見つめる先で、芝浦は悩む仕草も見せずに「俺のぶんも材料ある?」と聞くから、動揺しながらもうなずく。

「なに作るか決めてないけど……たぶん」
「キッチン、一緒に立つのって嫌?」
「……別に。掃除したてだから大丈夫」

とんとん拍子で決まったあと、芝浦が「じゃあ、作るか」と立ち上がる。

やっぱり芝浦は今、違う一面を見せている。
芝浦は、いつも胸の内をきちんと隠して守っているような男なのに、今はそれが丸出しな気がして……落ち着かない。

パーソナルスペースに招かれてしまったような、そんな感覚だ。

しかも芝浦は、私にわざとそういう部分を見せている気がして……その理由を考えてドキドキしてしまう。

今は仕事でいっぱいいっぱいだし、次の恋愛なんてまだ先でいいと思うのに、跳ねる胸は止めようがなかった。

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