エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない


人間がみんなして生まれながらに料理の才能があるなんて思ったら大間違いだ。
失敗して、何度も何度も失敗を繰り返して、反省して落ち込んで、そのあとでようやく料理スキルを手にできるのだから、世の主婦も主夫も大いに尊敬されるべきだ。

「あっつ……っ」

マカロニとじゃがいもがぐつぐつ茹でられたお鍋の取っ手を触ると熱を持っていた。
咄嗟に手を引くと隣に立つ芝浦が「大丈夫か?」と私の手を見るから、苦笑いをこぼした。

「うん。一瞬だしいつものことだから」
「いつも? やけどするのが?」
「うん。このお鍋は取っ手にも熱が回っちゃうから、持つときにはミトンか布巾が必要なんだけど……毎回、忘れて最初は手で触っちゃうの」

話しながら、コンロ下収納の戸部分にかけてあるミトンを取り、両手にはめる。
お鍋を持ち上げると、芝浦が通路を空けてくれるから、その前を通りシンクに用意してあったザルにそれを流す。
排水溝は熱湯に耐えられないらしいので、水も一緒に流しておく。

二畳もないキッチンは、ふたりで立つとギュウギュウだ。

本当なら別茹でしたほうがいいのだろうけれど、いくつもお鍋を使うのも洗うのが面倒だし時間もかかるからと、同時茹でしてしまった。

そのせいで茹でられすぎたじゃがいもは角が溶け始めている。
まぁ、いいや、と考えていると、湯気が一気に立ち上がる。

その湯気が思いの外熱くて思わず手を離してしまったせいで、お鍋がシンクのなかに落ち、ゴワンゴワンと音を立てた。
それを芝浦に笑われる。

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