エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない


「いやー、悪かったな。桜井。でも、芝浦がどうしても桜井とじゃなきゃ帰らないって駄々こねるもんだからさー」
「……今日の私、濃すぎない?」

「化粧? 別に普通だけど?」と不思議そうにする谷川くんに「こっちの話」とため息をもらした。

今日は、内見担当した三件がどれも厄介で残業にもなるしで正直ヘロヘロだ。
さっき白坂くんも変なこと言ってたし……と考え、あれはもう聞かなかったことにしようと心に決める。

聞いたときにはなにを言っているのかわからなかったけれど、ここに向かう途中で、あれ?もしかして……と気づいてしまった。気づきたくなかったし、勘違いならいいと思う。

とにかく、あんな匂わせぶりな発言はノーカウントだ。却下だ、却下。

もう家に帰って冷凍パスタを作る気力さえ残っていない。
それなのに、どうして酔っ払いの面倒まで見なくちゃならないのだろう。

貧乏くじを引きすぎている気がする。
今がどん底なんだからもう這い上がるだけだ、なんてポジティブ思考は働かない。ただただ疲れていた。

こんなとき、沼田さんみたいに『私、面倒なことはお金積まれない限り引き受けないって決めてるので』なんてズバッと言えたらどんなに楽だろう……と思いながらテーブルに突っ伏して寝ている芝浦を眺めた。

チェーン店居酒屋の個室は、六畳ほどの座敷にローテーブルというシンプルなものだった。
テーブルの一角には、谷川くんがそうしたのか、いくつものグラスと大皿がまとめてあった。

後ろ手に引き戸を閉めても、他の部屋からの声はガヤガヤという雑音となって届いてくる。

しかし。芝浦が飲んでつぶれるなんて珍しい……というか初めて見た。
気分が悪くなったりはしていないかな、と心配になり顔を覗くと、わずかに赤らんでいるだけでホッとする。

呼吸も落ち着いているし、表情も穏やかだし大丈夫そうだ。

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