私が恋を知る頃に
カンファレンスルームを出て、そのまま穂海ちゃんの部屋へ向かう。

コンコンッ

ドアをノックしてからそっとドアを開ける。

寝ているかな、とも思ったけど穂海ちゃんは起きていた。

背を起こしたベッドに寝たままテレビを見ているようだ。

「……あ、碧琉先生」

穂海ちゃんは私に気付いたのかこちらを向く。

「テレビ見てるところごめんね、ちょっと話したくて来ちゃった。」

そう言うと、穂海ちゃんはキョトンとした顔をしたまま頷いて、テレビを消してくれた。

ベッド横の椅子に腰をかける。

「あのさ、前に手術のお話したの覚えてる?」

そう言うと、明らかに穂海ちゃんの顔が強ばる。

「…………うん…」

「今ね、穂海ちゃんの心臓は、いつまた発作を起こすかわからない状態なの。しかも次また発作が起きたら、命に関わってくる。…だからね、来週あたりに手術したいって考えてるんだけど、どうかな」

穂海ちゃんは、不安げな様子で俺を見つめる。

「…………手術、痛くない?」

「麻酔をかける時だけ痛いかもしれない。でも、注射だからすぐに終わるよ。その後は寝ちゃってる間に終わるから。」

「………怖いこと、ない?」

「うん。ないよ。でも、手術室の雰囲気が怖いって言う人もたまにいるから、それだけ少し怖いかもしれない。」

「……………私、ここに戻ってこれる?」



「…うん。戻ってこれる。俺以外の先生方もベテラン揃いだから、大丈夫だよ。安心して。」

そう言うと、穂海ちゃんはそっと目を逸らした。

「…………手術、嫌だなあ…怖いよ……」

少し声が震えている。

どんな手術でも、患者さんはみんな決まってそう言う。

そうだよね…いくら眠ってるとはいえ、他の人に体切られたりするんだもん、怖くないわけがないか……

「…そうだよね。やっぱり、どうしても怖いよね……。でも、これを頑張ったらちゃんと病気治るから。一緒に頑張ろう?」

「………………うん。」

それでも、穂海ちゃんの表情は浮かないままだった。
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