私が恋を知る頃に
手術室に着くと、そこには既に杉山先生や看護師さんたちが待機してくれていた。

器材の準備も着々と進んでいる。

数人がかりでストレッチャーから穂海ちゃんを手術台へ移す。

「あとは任せな。お前は早く準備してこい。」

「はいっ」

杉山先生の頼もしい言葉を貰い、俺は準備室へと走る。

「まさか、こんな時に発作が起こるとはな…」

「でもしょうがない、起こったものは取り返せない。とりあえず今は助けることだけ考えよう。」

準備室では一足先に佐伯先生と清水先生が準備を始めていた。

「瀬川くん、緊張する?」

一瞬、言葉の意図を考えた。

でも、その意図を掴む暇もなく思った言葉を出す。

「……正直、してます。…今にも膝が震えそうです。」

そう言うと、清水先生はハハッと笑った。

「だよね~。だって俺も緊張してるもん。……本当は、今にも震えそう。」

「俺も。今すぐにでも逃げ出したいくらい。」

意外だった。

先生方は場馴れしてるから、緊張してるのは自分だけかと勝手に思ってた。

「…でもね、こういうのは緊張するくらいがいいんだ。逆に緊張しない方がおかしいよ。目の前の患者さんが死にかけてるんだよ?俺たちが動かないと死んじゃう。俺たちが正しい動きをしなきゃ死んじゃう。だから、緊張するのは正しいんだ。……不安かもしれないけど、大丈夫。俺たちは、幸運にもある程度の準備はしてきた。信頼出来るメンツも揃ってる。あとは、動くだけだよ。」

そう言って清水先生は微笑む。

「俺も楓摩にさんせー。大丈夫、ひとりじゃないんだ。みんながいる。俺らが動けばきっと助けられるから。」

そう言って佐伯先生も軽く笑う。

二人の言葉に涙が出そうだった。

そうだ、俺たちで穂海ちゃんを助けるんだ。

やらなきゃ。

全力を出すんだ。




「よし。じゃあ行くよ!」

「おう!」「はいっ!」

「絶対に助ける。俺らの目標はたったひとつ、これだけだよ。」

強く頷き、俺たちは足を踏み出した。
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