私が恋を知る頃に
「ねえ、穂海ちゃん」

まだ気持ちの高鳴りが抑えられないなか、碧琉先生に呼ばれて顔を上げる。

「もし良かったら、なんだけどさ……」

「…うん」

なんだろう

と頭に疑問を浮かべていると、先生は少しもじもじしながら口を開いた。

「"穂海"って呼んでも、いい?」

…………

一瞬、頭が固まる。

でも次の瞬間には、理解して顔があつくなる。

「…うん。」

そっか、呼び捨て

お付き合いしたら呼び捨てで呼んでくれるんだ……

距離が一気に近くなった気がして嬉しさ共に少し照れくさくなる。

「よかった。じゃあさ、穂海も俺の事名前で呼んで?」

自分が呼ばれる分には良いが、いざ自分で先生のことを呼び捨てで呼ぶとなると、さっきよりもさらに恥ずかしくなる。

なんか、本当に付き合えたんだって感じて…

ついこの前まで、恋愛なんて遠い世界の話だったのに。

「へ、…碧琉くん…………」

「うん。呼んでくれてありがとう、穂海。」

そう言ってまた笑いかけられて、またキュンとしてしまう。

今日は、気持ちが落ち着かない。

恥ずかしいとどきどきがずっとあって、心臓がうるさい。

実感は、正直まだ湧かない。

けど…

好きな人と結ばれることができるのが、とても、幸せなことだけは十分にわかった。
< 163 / 279 >

この作品をシェア

pagetop