私が恋を知る頃に
不安と緊張
その日の夜だった。

ひと仕事終え、仮眠を取ろうとした時だった。

~♪

…呼び出しだ。

俺は首からかけていたPHSを素早くとる。

「はい。小児科瀬川です。」

「お忙しい所すいません。穂海ちゃん、少し泣いてしまっているようで…。苦しくは無さそうなんですが、指示を仰ぎたくて。」

苦しくは無さそう、の言葉を聞き少し安心するも、同時に不安もよぎる。

これから、酷くなって過呼吸に陥る可能性も低くはない。

それに、泣いているなら直ぐに駆けつけなくちゃ。

「ありがとうございます。直ぐにそっち向かいますね。」

看護師さんからのPHSを切ると、俺は椅子の背にかけていた白衣を掴み穂海の病室へと向かった。







コンコンッ

「失礼します。」

病室に着くと、確かに泣き声が聞こえた。

すすり泣くような悲しい声。

「穂海、大丈夫?様子見に来たよ。」

そう言うと、穂海は驚いたような顔をして布団をバッと被ってしまう。

「驚かせちゃってごめんね。でも、もう大丈夫だよ。…心配だから、お顔見せて?」

そう言うと、布団の中から少しこもった小さい声がする。

「……大丈夫。…泣いてるところ、見られたくないから。」

あぁ、そっか。

泣いてるところを見られるのが恥ずかしいのかな…

「そっか。穂海が嫌ならそのままでいいけど…俺、穂海が泣いてるの笑ったりしないからさ……何かあったなら教えて欲しいな。」

すると、布団の中から少し手が伸びてきて俺の白衣を掴む。

「……ここ、居て…」

「うん。」

寂しいのか、気を紛らわせるためなのかわからないけど、穂海がこれで安心するなら俺はいつまでもここでこうしてよう。

「……少し落ち着いたら…話すから」

「わかったよ。ゆっくり穂海のペースでいいからね。」

「うん」
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