私が恋を知る頃に

碧琉side

「………穂海?」

いつものように一方的に眠り続ける穂海に喋りかけていた時だった。

穂海の閉じられた瞼からスーッと涙が溢れた。

一粒、二粒、どんどん涙が流れていく。

拭ってあげようとポケットから出したハンカチを穂海の目元に持っていく。

そのとき

穂海の瞼が開いた

僅かに開かれた目は、困惑したように瞬きを重ねやがていつもの穂海の顔になる。

俺は言葉が出なかった。

目の前で起きた出来事が信じられなくて、脳の処理速度が追いついてこなかった。

そして、気付いたら俺も泣いていた。

言葉の代わりに今まで溜めてきた穂海に対する沢山の思いが涙となって溢れた。

俺は泣きながら穂海に抱きついた。

かっこ悪いのはわかっていても体が勝手に動いていた。

思うところは本当に沢山ある。

でも、なによりも、今はただ

穂海が無事に戻ってきてくれたことだけが本当に本当に嬉しかった。
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