『またね。』
第5話
【卯月輝side】
「卯月くん!」
「はい。」
病室から出て僕は外に向かっていた。
その途中で鈴の母親に呼び止められた。
「…手術、明日…」
「分かってます。
なので鈴に渡しておいて欲しいものを取りに行きます。
…僕も最後の準備をしようと思います。」
…僕の願い。
鈴の幸せ。
鈴が幸せであればそれでいい。
…鈴が元気な時にちゃんと別れ言いたかったな…
手紙になっちゃうや。
「…本当に、いいの?」
「ここまで来て何言ってるんですか。」
鈴が苦しみから逃れたいのは鈴の両親だって分かっているはずだ。
彼氏と心臓が同一なら、親ならどちらを取るか一目瞭然だろう。
それにこれは僕が決めたことだ。
「…卯月くんがいなくなったって知ったらあの子は…」
「…その辺りはフォローお願いしますね。」
…僕はもう、鈴の傍には居られないから。
鈴のために出来ることはもうこれだけしかない。
鈴へのプレゼントの中に僕のアパートの鍵を入れておこう。
『またね。』の絵を持っててもらうも自由に。
あれは、僕から鈴への最期のメッセージだ。
さよなら、だと永遠にさよなら、だからまたね、にした。
…生まれ変わったらまた鈴に出会いたいなあ…
もっと強気な男に生まれ変わりたい。
僕は最期まで逃げてしまうから。
…母さん。
せめて、最期に母さんに会いたい。
ープルルル…
コール音が1回…2回…
『もしもし?輝?どうしたの?』
「…母さん、会いたい…」
『…どうかした?』
「…会いたいんだ…母さん…」
『分かった。』
母さん、これが最期だ。
『前に事故にあったあの商店街の文房具店でいい?』
「うん。」
『待ってるわ。』
…行こう。
これが母さんに会う最期なんだ。
最期くらいちゃんと…親孝行しておかないと…
僕は前に母さんに会ったあの商店街に向かって走った。
…文房具店…
の前に人影。
「…母さん。」
「輝、どうしたの?」
母さんの目の前で立ち尽くす僕。
「…とりあえず場所変えましょ?」
「だったら…僕の家、来て…」
…ここからそう遠くないから。

「…どうぞ。」
鈴以外来ることはないと思ってた。
母さんはアパートの中に入って父さんの遺影を見る。
「…和樹、久しぶりね…」
「母さん…父さんの遺影と遺骨持ってってあげて」
…僕が持っててももう、仕方ないから…
「…どういうこと?」
「前にも話したでしょ。
…僕はもう、死ぬんだ。」
鈴のために。
愛する人のために命を投げ出す。
「…輝…」
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